【高校物理 熱力学】気体の内部エネルギーとその使い方
今回は物理・熱力学の内部エネルギーの取り扱いについて。
実際にぼくが生徒を指導していて、内部エネルギーという概念を十分に理解できていない、あるいは使いこなせていないという生徒が多かったので、今回記事にすることにしました。
エネルギーという概念は物理学を考えていく中でとても重要な考え方です。詳しい話をしだすと完全に大学の内容になるのでしませんが、エネルギーというものを考えるだけで運動等の状態が直ちに判断できるということは多いのです。なので、きっちりマスターして使いこなせるようにしましょう。
内部エネルギーというものの存在する理由
かなり根本的なところから書いていきますので、難しいと思ったら次の「気体の内部エネルギーの表式と使い方」に飛んでもいいかもしれません。
熱というものは当初、「熱素」(caloric)と呼ばれる、一種の物質めいたものと考えられていました。すなわち、物理学が出来た頃には、もっと正確に言えば19世紀半ば頃までは、熱が伝導する現象はというものは、熱そと呼ばれる元素が移動したことによる現象だ、と捉えられていたのです。
しかし、熱のエネルギーは運動エネルギーに変換できるということをマイヤーが示しました。これが19世紀半ばのことです。それにより、熱というのは物質ではなく、原子の振動によって与えられるものだという解釈が定説となり、科学の進歩によってそれが正しいことがしょうめいされて現在に至っています。
したがって、熱を理解するにあたっては摩擦のようなイメージを持つのが一番わかり易いでしょう(ただし正確なイメージではないのでこのイメージに凝り固まらないようにしてください)。粒子が高速で移動していると考えましょう。これがどこかにかすったとします。速いものがかすると底の間には摩擦によって熱が生じることがイメージできるでしょう。これが熱のエネルギーというものです。
気体の内部エネルギーとはまさにこのことです。気体の温度が高いと気体の内部の分子が高速で飛んでおり、エネルギーを持つということになります。
気体の内部エネルギーの表式と使い方
気体の内部エネルギーの表式
さて、実際の表式と使い方です。ここは結論ありきなのでサッといきましょう。
$$単原子分子理想気体の場合、内部エネルギーUは、$$
$$U=\frac{3}{2}nRT$$
と表されます。
$$2原子分子理想気体の場合、内部エネルギーUは、$$
$$U=\frac{5}{2}nRT$$
と表されます。
この結果は高校範囲では導くのが難しいため覚えておくべきです。導出についてはまた別に書きたいと思っています。
気体の内部エネルギーの使い方
使い方は極めて簡単です。答えをいうと、力学的エネルギー保存の場合と同じように使えばいいのです。現象の前後で全体のエネルギーに変化がない、という式を書きましょう。
断熱自由膨張
指導していく中で意外と盲点となっているなと感じたのがこの「断熱自由膨張」とよばれるテーマです。具体的に見ていくことにしましょう。次の図を見てください。
上図の容器Aに気体が入っており、容器Bは真空であるとします。はじめコックは閉まっているとします。
コックを開くと気体の温度はどうなるでしょうか。
気候などでリアリティのある体験のある人だと、状態方程式PV=nRTより、Vか大きくなるのでPが小さくなる、よってTは小さくなる・・・と考える人が多いようです。実際、地球上では高度が上がると気圧が下がり、それにより温度が下がるからです。
残念ながらこの、感覚に基づく解答は間違っています。答えを言うと、温度は変わりません。
今実際に書いた説明をもう一度見直してみましょう。
『状態方程式PV=nRTより、Vか大きくなるのでPが小さくなる、よってTは小さくなる』
賢い人なら、いや賢くなくても、こうやって文字にされると考え方が間違っていたことに気付くと思います。Vが大きくなって、それに伴いPが小さくなると、PVは大きくなる可能性もあるのです。つまり、Tが大きくなる可能性があるのです。
こう考えると、未知数が多い状態方程式から考えるのは不可能だ、ということが分かるでしょう。
そこで、気体の内部エネルギーの表式を用います。エネルギー収支(エネルギーがどれだけ増減したか)を考えます。熱力学の法則から、外部から与えられた熱量Q=0、外部からされた仕事W=0となりますので、内部エネルギーの変化が0であることがわかります。したがって、
$$\frac{3}{2}nRT=(一定)$$
であり、内部の物質量は当然不変、気体定数も不変ということで、温度は一定であるということがわかります。
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