線形代数学1 線形空間の定義
今回から線形代数学の講義ということで進めていきます。行列の基本変形などをはじめとした内容は既に終わっているというところから始めていきます。ただし、一部復習として扱う予定です。この連載「線形代数学」では、より一般的な概念までたどり着けるようにしていきます。
今回は線形空間とは何か、というところから扱います。「線型代数学入門」(東京大学出版会)の92ページからの内容です。
線形空間(vector space)
集合(set):数学的に”明解に定義”されているものの集まりのこと
集合は高校数学の内容でも扱いますが、ここで再度きっちり定義することになります。ここでは”数学的に”定義され、その定義が”明解である”ということをいっていますので、例えば数式で与えられるものであれば明確に定義できる、などというように、明解に定義するというところがポイントになります。
【記号】
\(A:集合\)
\(a \in A \Leftrightarrow a\)が\(A\)の元(elemnt)
\( A \subset B \Leftrightarrow \) AはBの部分集合(subset)
特に、
\(B \subset B, \phi \subset B\)ならば、\(\phi\) :空集合(一つも元がない集合)
elementを高校では要素といいますが、大学では元ということが多いです。これは数学的に元というほうが適切だからです。要素という呼び方は、elementをそのまま和訳したもので、昔は使われていましたが今では元のほうが一般的です。
この講義では、「既にあるものから作られた」集合を考えていきます。といわれてもあまりピンとこないかもしれません。具体例を見てみましょう。
例)
$$ \bf{R^n}=\left\{ \left(\begin{array}{c}x_1 \\ \vdots \\x_n \end{array} \right) ,x_i \in \bf{R} \right\}:n次元タテベクトル全体$$
$$ \bf{R^n}=\left\{ \left(\begin{array}{c}z_1 \\ \vdots \\z_n \end{array} \right) ,z_i \in \bf{C} \right\}:n次元複素ベクトル全体$$
ここで、線形空間の特徴について。線形空間の特徴として、加法とスカラー倍が定義されているということがあります。
定義
集合Vがベクトル空間であるとは、加法とスカラー倍が定義されていて、以下の条件を満たすもの。
①\(\bf{0}\)(ゼロベクトル)という特別な元と\(\bf{u,v}\in \bf{V}\Rightarrow \bf{u+v} \in \bf{V}\)が定義されていて、
$$\bf{0+u}=\bf{u+0}=\bf{u}$$
$$\bf{x+(y+z)=(x+y)+z}(結合法則)$$
$$\bf{x+y=y+x}(可変性)$$
②\(\alpha \in \bf{R},\bf{x}\in \bf{V}\)に対し、\(\alpha \bf{x}\)が定義されていて、
$$(a+b)\bf{x}=a \bf{x}+b \bf{x}$$
$$a(\bf{x+y})=a\bf{x}+a\bf{y}$$
$$(ab)\bf{x}=a(b\bf{x})$$
$$1・\bf{x}=\bf{x}$$
では、なぜこのような抽象的な定義をする必要があるのでしょうか。
理由は、適用範囲が広がるからです。適用範囲を広げることでより実用的に扱おうと考えているわけです。概念的なアプローチをするのが数学です。抽象的なものの勉強というのは、例を考えるのが早いです。ここの例については、一種のベクトルと解釈した多項式を考えてみるとよいでしょう。以下のサイトで具体例を扱っています。
まず今回はここまでとして、次回は抽象的なベクトル空間にアプローチするために必要な基底や一次独立線形などといった概念を扱っていきたいと思います。
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