【解答・解説】2016年度 東京外国語大学 第1問
著作権の都合で、赤本に問題・解答・解説が載っていません。しかし、一部のWebサイト(東進の過去問データベースなど)に問題が掲載されています。しかし、解説がないので作成しました。
解答例
1, 有史以前の人間は現在とは異なり、他の生物に比べて地球での影響力がクラゲやキツツキ、ハチと同様に、非常に小さかったということを強調するため。(68字)
2, 人間がほかの生物より個々人の身体や頭脳の能力において、大幅に優れている訳ではないという結論に至る。(50字)
3, 人間以外が既定の枠組みに沿い協力するのに対し、人間は危機や新たな機会に直面した場合、集団のシステムを改変する形で新たな解決策を導けること。(69字)
4, 刑務所や殺戮施設、強制収用など、有史以来人間が行ってきた多くの残酷な事もまた、多人数の共同体によって行われたことだから。(60字)
5, 人間は、架空の物語を共有し、信じることができるので、異なる個人が同一の規定に従い、効率的に協力できるということ。(56字)
6, 実用性がなく紙切れに過ぎない紙幣を、権力者が一定の価値があるとし皆が信じることで、共同体における価値基準として機能する。(60字)
7, 人間世界は、自然のような物質的現実と同時に、EUや神、お金、人権、など共同体が信じることで形成される空想的現実がある二重構造を持つということ。(70字)
解説
ここからは解説をしていきます。著作権の都合で本文を掲載できないので、問題ごとの解説になります。
問1
1, 有史以前の人間は現在とは異なり、他の生物に比べて地球での影響力がクラゲやキツツキ、ハチと同様に、非常に小さかったということを強調するため。(68字)
問題文は「なぜ言及されているのか」という問題。下線部を含む英文は、”Their impact on the world was very small, less than that of jellyfish, woodpeckers or bumblebees.”となっている。この下線部以前の部分、及び前の文章”The most important thing to know about prehistoric humans is that they were unimportant.”の部分が理由となる。これを踏まえて答案を作っていく。これらの部分を読み取ると、答案の要素は次のようになる。
(a) 有史以前、地球における人間の影響力は非常に小さかった
(b) クラゲやキツツキ、ハチより小さかった
(c) 有史以前とは異なり、現在では影響力が大きい
最後の(c)要素については、”they were unimportant”という部分から読み取った。Be動詞が過去形となっており、過去形は裏の意味として現在とは異なる(現在の事実とは距離がある)ことを表しているからである。これらの要素を字数制限のうちにまとめる。
- (a)「世界に与える影響が少なかった」;本文3行目前半に、”on the world”とあるが、”in the world”とはなっていない。「世界の中で」、ではなく「世界(地球)の上で」ということが表現されている。また、下線部においては他の生物との比較がなされていることからも、世界経済などといった意味の世界ではなく、「自然環境」をイメージした「全世界」と表現されていると考えられる。したがって、自然環境について述べるために模範解答では「地球における」という表現を使った。
- (c)「地球での影響力が非常に小さく、重要な生物ではなかった」;間違いではないが、前半と後半で同じことを別の表現で繰り返している。東京外国語大の論述問題は字数制限にあまり余裕がないので、同じことを言い換える表現は可能な限り避けるべき。
問2
2, 人間がほかの生物より個々人の身体や頭脳の能力において、大幅に優れている訳ではないという結論に至る。(50字)
問題文をしっかり読む必要がある。「どのような結論に至ると述べられているか。」「比較の視点の説明を含めて」とある。したがって、比較の視点(=比較基準)を明確に示さなくてはならない。比較の視点については、下線部の終わりの行(第3段落2行目)の後半から述べられている。”…about the human body or human brain that makes each individual human…”の箇所に根拠がある。「個々人の身体や頭脳の能力の程度」が比較基準となっている。また、結論としては「他の動物(ここでは、犬・豚・チンパンジーが例示されている)と大きな差異はない」ということが結論となっている。したがって、まとめるべきポイントは次の通り。
(a) 個々人としての身体や頭脳の能力の程度を比較する
(b) (a)の比較の結果、人間が他の生物と比べ大幅に優れているわけではないという結論に至る
- (a)「個々の個体としては」;比較基準が明確ではない。「身体や頭脳の能力の程度」を比較していることを明示する。
- (b)「チンパンジーと比べて」;下線部は”…between us and other animals…”となっている。あくまで「人間と他の動物」を比較しているのであり、チンパンジーとの比較結果は一例として下線部を含む段落で挙げられている。下線部を丁寧に分析してから問題に取り掛かりたい。
問3
3, 人間以外が既定の枠組みに沿い協力するのに対し、人間は危機や新たな機会に直面した場合、集団のシステムを改変する形で新たな解決策を導けること。(69字)
3段落目(下線部(2)がある段落)で「個人としての人間」について述べられている一方、4段落目で「集団としての人間」について述べられている。下線部の前後では、「集団としての人間」に焦点が当てられているので、4段落目を根拠に答案を作成する。
下線部の前が”If a beehive is facing a new thereat or a new opportunity,…”つまり、「危機や新たな機会に直面する場面」が想定されている。下線部の後では、”They cannot, for example, execute the queen and establish a republic”と、具体例ながらも「王国から共和国への移行」が述べられている。ここは具体例であるから抽象化する。動物には国家がないことを考えれば、「共同体のシステム変革」と抽象化でき、さらに抽象化すると、共同体のシステム変革という手段による「新たな解決策を導くこと」となる。「共同体のシステム変革」で十分であると考えられるが、この解答では後半も含めた。また、問題文では「人間に関してどのような含意を持つのか」と問われているので、解答の本体となる部分では「人間が」を主語として書いた。以上を踏まえて、次のポイントをまとめることが理想である。
(a) 人間が危機や新たな機会に直面した際
(b) 集団のシステムを変革する形で新たな解決策を導く
それに加え、下線部では他の生物とも比較しているので次の表現も含めた。
(c) 人間以外の生物は(a),(b)のようなことが難しい
以上をまとめればよい。
- 「集団で協力して新たな解決策を導く」;集団のシステム自体を改変することが述べられている。
- 「問題に直面した時」「新たな機会に直面した時」;両方が場面として想定されている。両方に言及したいところ。
問4
4, 刑務所や殺戮施設、強制収用など、有史以来人間が行ってきた多くの残酷な事もまた、多人数の共同体によって行われたことだから。(60字)
理由は下線部の次の文章で述べられている。また、さらにその次の文章(“Prisons, slaughterhouses and concentration camps are also…”)で、その具体例が挙げられている。したがって、字数を考慮して可能なら下線部の段落第3文を入れつつ、第2文を中心にまとめていく。
(a) 人間が行なってきた多数の残酷なことは、多数の人が協力することによって行われたことである。
(b) (a)の具体例として、刑務所や殺戮施設、強制収容所などが挙げられる。
以上のポイントを丁寧にまとめればよい。
問5
5, 人間は、架空の物語を共有し、信じることができるので、異なる個人が同一の規定に従い、効率的に協力できるということ。(56字)
下線部には指示語thisが含まれている。下線部の説明をする問題であるから、指示内容は考えなくてはならない。指示語thisが指す中身は前段落最終文”we all obey the same laws, and can thereby cooperate effectively”である。これを含めて「下線部の意味」を説明する。また、問題文で「理由を示せ」となっているから、理由も述べる。理由は、前段落最終文の前半に”As long as everybody believes in the same fictions”と述べられている。ここを理由としてまとめる。これらをもとに下線部の文章を説明していく。
(a) 人間は全員が同じフィクション(架空の物語)を信じることができるため
(b) 同一の規定に従ったり、効率的に協力したりできる
- 「効率的に協力できる」;前段落最終文では、「同一の規定に従う」こととand(等位接続)で繋がれている。そのため、これだけでは不足している。
- 「チンパンジーは…ができないが、人間は…ができる」;下線部はonly human can doと述べている。つまり、人間だけができることに焦点を当てているので、「チンパンジーができないこと」には触れなくてよい(触れられるとなお良いが、字数制限から考えて厳しい)。
問6
6, 実用性がなく紙切れに過ぎない紙幣を、権力者が一定の価値があるとし皆が信じることで、共同体における価値基準として機能する。(60字)
下線部では、共同体における経済のネットワークについて述べられている。下線部のある段落で、具体例を交えて説明されているので、それらを踏まえて説明をしていく。
“green piece of paper”と、ただ単に「紙切れである」と述べられている。しかしこの「紙切れ」も、”As long as millions of people believe this story”とあるように、「皆が信じる以上はバナナ5本分の価値がある」と言っている。その前提として、アメリカ合衆国大統領が例示されて、「価値あるものとする」ことが述べられている。これらをまとめる。
(a) 実用性がなく紙切れに過ぎない紙幣が
(b) (a)の価値を皆が信じる
(c) (b)の前提として権力者が価値あるものとする
(d) さまざまな物と交換できる(=価値基準となる)
とまとめられる。
問7
7, 人間世界は、自然のような物質的現実と同時に、EUや神、お金、人権、など共同体が信じることで形成される空想的現実がある二重構造を持つということ。(70字)
下線部は「私たち人間は、二重の世界に住んでいる」と述べている。つまり、人間の世界が自然などの「現実世界」と、神話などの架空の物語に基づいた「空想的現実世界」の二つからなっているということである。下線部の次の文章でも、前半で「現実世界がある」と述べられているが、butで逆接され、「空想的現実世界」について述べられている。これについて触れる。また、「現実世界」としては「自然」が、「空想的現実世界」としてはEUや神、お金、人権などが例示されているので、可能な範囲でこれらの具体例も取り上げるとよい(東京外国語大の論述問題は字数制限が厳しいことが多いので、字数に余裕がないと判断したら切るのもあり)。これらから、次の5つの要素をまとめれば良いと考えられる。
(a) 物質的現実が根底にある
(b) (a)の具体例として自然が挙げられる
(c) (a)の上に空想的現実世界がある
(d) (c)の具体例としてEUや神、お金、人権などが挙げられる
(e) 人間世界は(a)と(c)の二重構造となっている。
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